- グローバル・スタートアップ・エコノミーの現状
- エコシステムのライフサイクル分析
- グローバルスタートアップ・エコシステムランキング2022 (トップ30+次点の地域)
- ランキング2022:新興エコシステムトップ100
- グローバルスタートアップ サブセクター (分野別)分析
- 創業者が自分の価値観をオープンにし、率直に語るべき理由
- ファンドレイジングを始める前に知っておきたいこと
- スタートアップにおける多様性がプラスに働く時、マイナスに働く時
- 新興エコシステムで強いコミュニティ意識を醸成するための3つのポイント
- メンタリングを正しく行うには
グローバルスタートアップ・エコシステムランキング2022 (トップ30+次点の地域)
Startup Genomeのエコシステムの網羅率は拡大している。2018年に60のエコシステムから始まり、2019年には150、そして現在では300近くまで分析対象が拡大した。これにより、世界のスタートアップ・エコシステムのトップ40だけでなく、新興のスタートアップ・エコシステムのトップ100をランク付けすることが可能になった。
さらにエコシステムのリストを拡大することで、中央アジア、中東、アフリカ、ラテンアメリカなど、従来は注目されなかった地域も含むようになった。また「新興エコシステム」トップ100についてもリストを拡充している。これらのエコシステムは、最もパフォーマンスの高いエコシステムのリストからは外れているものの、その影響力と重要性は世界経済において重要なものとなっている。
主な調査結果
- 2020年、2021年と同じ5都市のエコシステムがランキングの上位を占めているが、北京が1つ順位を下げ、ボストンが4位と以前の順位に戻った。1位はシリコンバレー、2位は同率でニューヨークとロンドン、4位はボストン、5位は北京となっている。
- ソウルは2021年の16位から順位を6つ上げ、初めてエコシステムのランキングでトップ10に。
- インドのいくつかの都市のエコシステムが順位を上げた。中でもデリーは2021年より11位上昇して26位となり、初めてトップ30入りを果たした。ベンガルール (カルターナカ州)は昨年から1つ順位を上げ、22位となった。
- 全体として、中国のエコシステムのランキングは低下しているが、これは他のエコシステムと比較して、アーリーステージの資金調達が相対的に減少していることを反映している。
- ヘルシンキは昨年から20位以上順位を上げ、同率35位となった。
- 2021年にユニコーン入りを達成した企業は、2020年の150社から、過去最高の540社となった。
- 2021年、ブラジルはシリーズB+ラウンドのドル換算の規模が2020年比で237%成長した。そして2021年のブラジルのExit総額は490億ドルで、2020年の10億ドルから大きく飛躍した。
- アジアでは、2020年から2021年にかけて5000万ドル以上のExit額が312%増加した。
- 2021年、ロンドンにおけるExitのドル換算額は2020年から413%増加した。エコシステムのシリーズB+ラウンドの規模は2020年からドル換算で162%増加し、2021年には2020年に比べて5000万ドル以上のExitが55%増加した。
ファクターは1~10で採点し、1が最も低く、10が最も高い。詳しくは、「メソドロジー」をご覧ください。
エコシステムを開発することは曖昧になりがちであるが、Startup Genomeは300のパートナーとともに、これを数値的に分析した。実際に信頼できるベンチマークやデータがなければ、イノベーション政策やプログラムが期待される経済効果につながらないことがよくある。私たちの起業家精神とスタートアップ・エコシステム評価手法は、より多くの人材やスタートアップを育成するために、政策担当者が適切な決定を下すための指針となっている。
今年のランキングは、おそらくStartup Genomeにとってこれまでで最も興味深いものとなっている。具体的には、多くのエコシステムが大きな動きを見せているほか、インドの台頭と対照的なアーリーステージの資金調達におけるマイナス成長に伴う中国の成長の鈍化という2つの重要なテーマが浮かび上がっている。
インドのエコシステムは、エコシステムにおける価値の全体的な成長を示すものとなっており、デリー、ムンバイ、ベンガルール、プネをまとめて、2019年第2四半期から2021年末までに25社のユニコーンを生み出した。インドの成長にかかわらず、北米は依然としてグローバルランキングを支配しており、上位30社のエコシステムのうち47%がこの地域に属している。次いでアジアが30%となっている。また2021年の5,000万ドル以上の規模でのExit状況で比較すると、北米では合計6,980億ドル、アジアでは合計5,310億ドルをそれぞれ占めている。
グローバルリーダー
世界のエコシステムのトップ5は例年とほぼ同じだが、注目すべき違いは、北京が2021年から1つ順位を下げ、昨年5位であったボストンと順位が入れ替わったことである。また上位30のエコシステムのうち、上位5つのエコシステムの価値は合計で3兆8,000億ドルとなり、残りの25のエコシステムの価値は、合計で2兆3,000億ドルとなっている。
シリコンバレーは間違いなく今も世界をリードするエコシステムであるが、アーリーステージ投資の金額換算シェアは、2012年から2021年にかけて25%から13%に低下している。アーリーステージの資金調達はテクノロジー分野の未来に関する先行指標といえるため、この傾向は、世界の他の地域のテクノロジーの成長がシリコンバレーよりも速いペースで進むことを示唆している。10億ドル以上のExit数におけるシリコンバレーのシェアも、2012年以降半減している。ニューヨークとロンドンは引き続きハイテク関連で中心的な役割を担うエコシステムであり、いずれも2位となった大きな要因は、両エコシステムの「知識」の評価値が高いことである。ロサンゼルスは昨年同様6位であるが、今年は「コネクティビティ」の評価値が大幅に上昇している。そしてテルアビブも昨年と同じ7位を維持している。イスラエルのエコシステムでは調査期間中に10億ドル規模のExitが3件あり、今年のエコシステムの総価値は1000億ドルを超えている。
ソウルは10億ドル以上のExitが5件あったため、初めてトップ10にランクインした。ソウルのエコシステムは2020年からから2021年にかけて6位順位を上げ10位に入った。最大のExitは、eコマースプラットフォームを展開するCoupangの2021年3月の600億ドル相当のIPOであり、ソウルのエコシステム価値の約42%を占めている。ホットスポットおよび急上昇したエコシステム
今年のランキングでは、インドが大きな変化を見せている。デリーは順位を11位上げて、26位となった。デリーのエコシステムが初めてトップ30に入ったのは、アーリーステージの資金調達が増加し、10億ドル以上のExitが3件あったことが要因となっている。ベンガルールは昨年から1つ順位を上げて22位となっている。このエコシステムでは、5000万ドル以上のExitが8件あったが、これは昨年のレポートであるGSER2021の期間と比較して3件多く、マーケットリーチも向上した。
ムンバイでは2つのユニコーンが誕生し、GSER2022の期間中に10億ドル以上のExitが3件発生した。それによりエコシステムの価値が高まったことで、2022年は36位タイに上昇した。チェンナイとケララはそれぞれ順位を21位、20位上げ、プネとテランガナもインドの躍進に貢献した。
ベルリンは昨年から6つ順位を上げて16位となり、10億ドル以上のExitが5件あった。ベルリンは、ヨーロッパのエコシステムのリーダーとしての地位を確かなものにし、現在14社のユニコーンを輩出している。
大西洋の反対側では、サンディエゴが昨年から8つ順位を上げて13位となった。ライフサイエンス関連のサブセクターが強く、40億ドル以上のExit4件のうち3件、そして5000万ドル以上のExit25件のうちの数多くがライフサイエンス分野でエコシステムに貢献したことが、この順位変動の主な要因である。
トップ30+次点
オセアニアではシドニーが昨年から4つ順位を上げて20位となり、最も大きな躍進を見せた。シドニーのエコシステムの評価額は670億ドルであったが、それはCanvaの390億ドルの評価額に大きく起因している。
デンバー・ボルダーのエコシステムは2021年から3つ順位を上げ、24位となった。コロラドのエコシステムは、アーリーステージの資金調達額、件数共に増加しており、「コネクティビティ」においても大きな成長を見せた。
マイアミのエコシステムは昨年から順位を9つ上げて33位となった。マイアミでの5000万ドル以上のExitは、GSER2021年の期間の4件から2022年には11件に増加した。また、10億ドル以上のExitも2件記録した。
今年はコペンハーゲンとヘルシンキが共に31位となり、特にヘルシンキは59位から31位と大躍進を遂げた。コペンハーゲンでは、2020年9月のIPO時のUnityの評価額137億ドルをはじめ、分析期間中に10億ドル超のExitが2件あった。ヘルシンキでは、フードデリバリー会社のWoltが2021年11月にDoorDashに81億ドルで買収されるなど、5000万ドル以上のExitが7件あった。また、ヘルシンキでは分析期間中に2社のユニコーンが誕生した。
成功要因ハイライト
2022年のランキングを作成するために、各エコシステムにおける6つの成功要因を測定した。
• パフォーマンス (Performance)
• 資金調達 (Funding)
• マーケットリーチ (Market Reach)
• 経験・人材 (Experience & Talent)
•コネクティビティ (Connectivity)
• 知識 (Knowledge)
これらの成功要因にはそれぞれ1〜10のスコアが与えられている (1が最低で10が最高)。詳しくは、 メソドロジーを参照。
パフォーマンス (Performance)
主な調査結果
- パフォーマンスの評価項目において上位5つのエコシステムは、全体的なグローバルリーダーでもあり、その5つはシリコンバレー、ロンドン、ニューヨーク、ボストン、北京である。
- テルアビブでは、ロサンゼルスやロンドンと同レベルの大規模なExitが起こった。
- Exitも多く出たことを反映しサンディエゴは昨年より4つ順位を上げ、デリーは6つ順位を上げた。いずれも5,000万ドル以上のExitが伸びている。
パフォーマンスに関する成功要因 :
- エコシステムの価値評価 (Ecosystem Value): エコシステムの経済効果を表す指標で、2年半の期間におけるExit評価額と評価額の合計で算出される
- Exit: 5,000万ドル以上、および10億ドル以上のExitの数、およびExitの成長率
- スタートアップの成功度合い (Startup Success): エコシステムの中でどれだけのスタートアップが成功しているかの度合い。アーリーステージの成功 (シリーズBとAの比率)、レイトステージの成功 (シリーズCとAの比率、ユニコーン数)、Exitまでの期間 (IPOとその他のExitの両方)で測定される。
資金調達 (Funding)
主な調査結果
- 資金調達へのアクセスにおいては、ソウルが2021年から4つ、シドニーが2つ順位を上げた
- ワシントンD.C.は、特に「品質と活動レベル」の観点で強みを発揮した
- テルアビブは、資金調達件数、資金調達額共に上位であった。アーリーステージでの資金調達の強さは、テルアビブのエコシステムの革新性を示している
資金調達に関する成功要因 :
- 資金調達へのアクセス : 初期段階での資金調達量と成長率の関数
- 品質と活動レベル : 現地投資家の数、その投資家の経験 (平均投資年数、出口比率)、活動レベル (2022年第1四半期に活動した投資家の割合、新規投資家数)
マーケットリーチ (Market Reach)
主な調査結果
- トップランクのエコシステムに加え、テルアビブ、上海、ストックホルムは、世界有数の企業を生み出すトップエコシステムの一つとなっている。こうした都市のスタートアップは、新しい国や顧客にリーチすることができている
- デリー、ベンガルールは、ベルリン、ストックホルム、サンパウロと同様に、昨年より「世界有数の企業」のスコアを上げている
- 知的財産の商業化については、テルアビブ、サンディエゴ、シアトル、シンガポールが強い
マーケットリーチに関する成功要因 :
- グローバルカンパニー割合 : エコシステムにおけるスケールアップとユニコーンを創出する機能を表す。評価額10億ドル以上の企業のGDPに対する比率、10億ドル以上のExitのGDPに対する比率、資金調達に対する大規模Exitの比率 (5000万ドル以上のExitとシリーズAの比率)で測定
- 国内マーケットへのリーチ : 各国のGDPの関数として推定される国内市場の大きさ
- 知的財産の商業化 : 有形の知的財産の商業化を、政策的にどの程度奨励しているかを国レベルで測定した指標
コネクティビティ (Connectivity)
主な調査結果
- ロサンゼルス、トロント・ウォータールー、コペンハーゲン、ヘルシンキは、昨年より地域内のつながりが向上しています。
- ロサンゼルス、サンディエゴ、パリ、フィラデルフィアはテクノロジーとライフサイエンスの研究のためのインフラで上位にランクされています。
コネクティビティに関する成功要因 :
- 地域内のつながり : エコシステム内の技術系ミートアップの数の関数。
- インフラ : ライフサイエンスに特化した指標で、エコシステム内のアクセラレーターやインキュベーター、研究助成金、研究開発拠点 (たとえば、トップレベルの研究病院や企業の研究開発ラボなど)の数を考慮する
経験・人材 (Experience & Talent)
主な調査結果
- スタートアップの経験値が上位であるエコシステムは、もはや世界的なリーダーだけではない。東京とパリはこのカテゴリで世界最大のエコシステムに続いている
- スケールアップの経験値については、依然としてアメリカが優位を占めており、このカテゴリーで高得点を獲得したエコシステムのほとんどがアメリカ企業である
- 人材獲得はオンライン化により容易になったが、才能ある人材の獲得については特にライフサイエンス分野ではまだ点数に幅がある。スタートアップでは遠隔地からの技術者の採用にも積極的に取り入れており、人材のコストは上昇している。
人材・経験に関する成功要因 :
技術系人材- アクセス : 採用時に2年以上のスタートアップ経験を持つエンジニアや従業員の割合
- 人材の質 : GitHub上のトップ開発者の数と密度、英語力、Exit履歴に応じた人材. また、品質とは、エコシステムにおける経験豊富なスケーラブルなチームの代名詞でもある。
- コスト : 費用対効果 ソフトウェアエンジニアの平均給与 (給与が高いほどスコアは低くなる)
ライフサイエンス人材
- アクセス : STEM分野の学生と卒業生の数、ライフサイエンスに特化した大学と学位プログラムの数。
- 人材の質 : Shanghai Rankingsによる、現地大学の生命科学分野の教育・研究の質を表す関数。
経験値
- スケール経験:エコシステムで設立されたスタートアップの10年間における重要なExit (5,000万ドル以上、10億ドル以上)の累積数
- スタートアップの経験: シリーズAステージで起業し、資金調達を行ったアーリーステージの累積数
知識 (Knowledge)
主な調査結果
- シリコンバレー、北京、東京は特許活動が盛んで、特許の複雑さがその好調さに拍車をかけている。
- AIやライフサイエンスなど、より専門性の高い分野で重要な要素となる研究の質は、アメリカの主要エコシステムで高い水準にある。ロンドン、パリ、ベルリン、トロント-ウォータールーがその後に続いている。
知識に関する成功要因 :
- 研究内容 : 出版物の影響度を示すH-Index、この指標は国レベルでのライフサイエンス研究の生産性を見るものである。
- 特許 : エコシステムで発生するライフサイエンス特許の量、複雑さ、可能性。