グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート 2023

GENからのメッセージ




「起業とは混沌としたものである。エコシステムはシステム的な思考から恩恵を受ける一方で、大胆かつ創造的なアイデアは無秩序と偶然から湧き上がってくるのだ。」

Jonathan Ortmans undefined
創設者兼社長 Global Entrepreneurship Network (GEN)
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Global Entrepreneurship Network(GEN)は、世界中のスタートアップ・エコシステムをベンチマークとして継続的にモニタリングすることで高い評価をいただいているこの調査に、Startup Genomeとともに8年目を迎えることを誇りに思っている。約200ヶ国の起業家を支援してきているGENの取り組みは、この度の2023年度版のレポートと同じストーリーを発信し、同様の結論を導き出している。


ピンチこそチャンスである

投資家のJack Templeton氏はかつて”Trouble is opportunity”と言ったが、この激動の時代においてまさにふさわしい言葉である。Kauffman Foundationの調査によると、不況や弱気相場は痛みをもたらし、短期的にはビジネス創出の減少に繋がるが、新規事業の創出や存続に大きな悪影響を与えるわけではない。2009年のFortune 500にランクインした企業の半数以上、そして2008年のInc.のリストにランクインした企業の半数弱が、不況や弱気相場の最中に起業している。Airbnb、Uber、WhatsApp、Slack、Squareは2008年から2009年に始まり、他にはInstagramのような成功例が2010年に続いている。この調査はまた、スタートアップの雇用創出は経済全体の雇用創出よりもはるかに変動が少なく、景気後退の影響を受けにくいことも示している。

経済も農業と同様、休耕期間を経験しなければならない。何世紀にもわたり、農家は畑の25%が休耕地となることを前提に計画を立て、多雨や水不足、栄養不足が発生するなど厳しい条件下での生育期に適応してきた。スタートアップやそのエコシステムにとって、経済が低迷している時期に学ぶべきことは多い。不要なものを削減し効率性を高めることで、好景気時に資本が戻ってきた際により投資可能な企業群が生まれるのが一般的である。


包摂性がイノベーションを加速する

単純な計算でもわかる通り、誰かが取り残されることがあれば経済は苦しくなる。イノベーションのエコシステムは、最も多様なコミュニティが幅広く関与することで恩恵を受ける。実際、世界を変えるようなアイデアは、無意識のバイアスを認識し、ユニークな経験や歴史を持つ人々を意義のある形で巻き込むことで、より早く生まれてくる。結局のところ、起業とは混沌としたものである。エコシステムはシステム的な思考から恩恵を受ける一方で、大胆かつ創造的なアイデアは無秩序と偶然から湧き上がってくるのだ。


光速の回復力

私たちは北極星のように起業家を見据えて学び、耳を傾け続けなければならない。最近では、GENは55ヶ国から100人のファウンダーを招集し、資金調達や指導、支援を競わせた (実際には彼らが教える側としてほとんどの指導を行った)。そして、数多くのイノベーターたちが世界で起きている変革に対し冷静に適応する速さには驚かされた。世界の起業家エコシステムへの衝撃は、かつてないほど速く吸収されており、これは経済学者にとって喜ばしいニュースである。私たちはもはや大きなバブルが崩壊することを懸念してはいないが、定期的な不穏な空気に適応することで皆が警戒状態になることに関心がある。迅速に適応する起業家の行動は、短期的なマクロ経済の混乱をもたらすのだ。

最近の投資の低迷にもかかわらず、世界の起業家エコシステムの状態は強固である。私たちは誰もが参加することを歓迎し、実験を奨励し、全く恐れをなさないファウンダーたちが世界最大の課題解決の道を指南してくれる限り、社会が気候変動と地政学的な分断に対処しすべての人々のための持続可能な地域経済を創出するために必要な解決策とともに、世界経済の成長は進むだろう。